父の背を追いて生きなん今日もまた
神に謝しつつ庭掃き清む
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今朝の母頬あざやかに輝きて
交わす言葉もいと愉(たの)しげに
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星空を見上ぐる病父(ちち)の瞳には
古き想い出涙に溜めて
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他人(ひと)は言う元気かくしゃく良かったね
父の真意(おもい)は寂しい背中
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久方に生(あ)れし赤尾木訪う病父(ちち)の
あふるる涙に我も泣きいし
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嬉しさにからだ奮(ふる)わせ手を握る
僕の誇りだ九十二の父
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やせた手でわれを抱きしむ病父(ちち)あわれ
残せし母を気遣い給えり
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朝日さす川面に漂う花びらよ
彼岸の亡父(ちち)の目にも触れるや
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亡き父のみすがた映るビデオ前
正座の母はみじろぎもせず
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歳老(としお)いてただ耐えくれし萎(な)えた母
耳奥絶えず蝉鳴くごときと
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母八十路(やそじ)おぼつかなしと悟りける
寝てつ起きてつ日々に険(けわ)しき
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母ちゃん(あんまあ)や父ちゃん(じゅう)の後を駆けてきた これから僕が魁(さきがけ)にならむ
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病む老母(はは)と在りし日の父語らえば
涙あふるる手を握りしむ
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除夜の鐘老母(はは)と語るはしみじみと
重荷おろせし定年の暮れ
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朝夕にいただきますと掌を合わす
老母(はは)の瞳のなんと愛おし
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リハビリと村歩き見るお老人達(おとしより)
春の陽浴びて笑顔うららか
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ありし日に亡父(ちち)と参りし精霊殿
今も思いつつ香を捧げぬ
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なみだ溜め病母(はは)の言葉の重きこと
吾の知らない苦闘の歴史
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明日もまた明るい笑顔見たいよね
苦労重ねて小さくなる老母(はは)
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六回忌不意に枯れたるシクラメン
想い出抱きて父を追いしか
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幼き日母が手を取り吾歩む
今懐かしく老母(はは)の手を取る
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坂道を上るも嬉し精霊殿
亡父(ちち)に報告老母(はは)元気だよ
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終戦の1月1日命懸け
吾生みし老母(はは)よ「いつもありがとう」
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空襲をくぐりて老母(はは)は吾を生む
23歳(にゅじゅうさん)の乙女命を賭けて
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亡父(ちち)がまだ家の何処かに居るらしい
老母(はは)が微笑む涙を流す
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