会員からのお便り
 

奄美・島唄紀行−榮百々代

 私は島唄を勉強するため、奄美各地を訪ねています。実際に唄の生まれた場所や唄に歌われている風景を自分の目で見て、その空気を感じたいと思っています。加えて、それぞれの地域にはそこに根差したそれぞれの唄があり、CD等の音源では耳にすることの出来ない生の唄を聴きたいからです。

  これまで幸せなことに、とても人に恵まれ貴重な唄を教えて貰い、また唄の歴史を学ぶ機会も頂いております。旅先で演奏をさせて頂く機会も増えました。そうして学んだ唄を島の人々が喜んで聴いてくれ、時にはおはやしを入れてくれたり、一緒に口ずさんでくれることがとてもうれしいです。

 今回は、9月8日から同15日まで瀬戸内町の与路島や宇検村芦検、奄美市名瀬などを訪ねました。

与路島での古老との唄遊び

 今回の旅では、まずは与路島に渡りました。「山(さん※)と与路島」に歌われている海を見たかったからです。台風15号の影響で道路が寸断されており、徳之島を望む高台まで登ることが出来ず、その目的はかないませんでした。※徳之島の地名

  しかし、集落の辻での演奏は忘れがたいものになりました。古老との唄遊びの中で、島唄が生活の中にしっかりと根付いているのを実感し、とても癒やされました。また、与路島では「山と与路島」の歌詞は八月踊りの中にあり、民謡としては主に徳之島で歌われていることを教えてもらいました。

  名瀬生まれで1歳から関西育ちの私は、人の何倍も奄美の事を勉強しなければ、と思っています。なかでも特に言葉です。使い慣れない古い方言での島唄はとても難しいです。

 普段から瀬戸内の方の島口を、注意深く聴いています。そんな中でラジオ出演が急きょ決まり、私の「東節(ひぎゃぶし)」は瀬戸内の方々に認めてもらえたという実感があり、とてもうれしく思いました。

珊瑚の石垣とハブ獲り用の棒
FMせとうちに出演。「くるだんど」を歌った


 宇検村の芦検民謡保存会の定例会に参加しました。芦検の「かんつめ節」は私が習った「かんつめ節」とは全くメロディーが違いました。そこで初めて聴く唄、初めて見る踊りも多く、島の文化の多様性と奥深さを改めて感じました。

 特に「芦検稲すり踊り」の唄と踊りが印象的でした。そこで歌われる「汗水節」と「稲すり節」は、沖縄民謡とのつながりが深く、三味線の音階や奏法が沖縄民謡っぽいな、と感じました。また「芦検稲すり踊り」は、天皇陛下の神事としての御田植え祭りに奉納したのが始まり、とのことでした。

  島唄を学ぶに当たっては、そういう文化的背景や歴史を知ることも大切だなと、実感した次第です。最後は保存会の方々が、太鼓を叩きながら芦検に伝わる送別の唄で、私を見送ってくれました。皆さんの温かい気遣いに感動し、つい感激の涙を流してしまいました。

芦検民謡保存会の皆さんとの歓談風景

「芦検稲すり踊り」の由来が記されていた
送別の唄で見送られた

 奄美市の名瀬長浜町では、島唄教室を主宰する生元(いけもと)高男さんの「青鳩会」に参加しました。集団に対する指導法や発声法など、教室独自の指導方法は大変勉強になりました。その教室でも、ご好意で20分ほど歌わせて頂きました。

島唄を披露させてもらった(奄美市名瀬長浜町の金久分館にて)

青鳩会の皆さんと記念撮影(最前列右から2人目が生元さん)

 奄美市ではまた、瀬戸内町網野子出身の森チエさん(91歳)に島唄を習いました。古くから歌い継がれてきた歌詞を教えて頂きました。一緒に歌いながら教えて下さるので、島唄独特の「間」を学びました。

 加えて、島唄に対する心意気を肌で感じました。森さんは唄のすごみもそうですが、人間としてのスケールの大きさを感じました。

森チエさんから指導を受けた
左は三味線店「福盛堂」店主の盛浩司さん

 勇気を出して積極的に動く事で、今回も得るものがたくさんありました。叔母の同級生や親戚の友人など、人と人のつながりが見え、とてもうれしい思いがしました。

 島唄は、今は亡き祖父母が大好きだったので、ずっと大切に歌い続けていくつもりです。 島唄を歌っていると、祖父母が近くにいるような気がします。島唄を始めた事で、奄美全体が自分の故郷だと思えるようになりました。

 私の両親のルーツは奄美市の浦上と大熊ですが、訪ねた土地と人に愛着が湧いてきます。今後も奄美の伝統芸能である島唄の継承と普及に努めて行こう、と思っています。


 HP管理人から=榮百々代さんの母親は、関西配田ヶ丘会の榮米代さん(旧姓:前山、実高家政科卒)です。百々代さんは、島唄の大御所である武下和平さんの教室に15歳で入り、35歳で武下流師範となりました。

 現在、主婦業をこなしながらプロの唄者として、関西を中心にライブ活動や市民大学の公開講座などで島唄を披露し、その普及に努めています。東京配田ヶ丘同窓会も声援して行きたいと思います。

武下和平さんとの共演(右が榮さん)

榮百々代さんご主人のブログ http://blog.livedoor.jp/daduda/archives/2012-09.html
榮百々代さんツイッター @0914momo

(了)
(2012.09.29up)


HOMEへ

Copyright (C) 東京配田ケ丘同窓会/ホームページ委員会 All Rights Reserved.